音楽専門チャンネルのスペースシャワーTVを運営するスペースシャワーネットワークと台湾文化センターのコラボ企画、トーク&ライブイベント「台湾最大の音楽賞・金曲奨を探る」が7月29日と30日に 台湾文化センターで開催され、初日には中華圏で「KING OF LIVE」と呼ばれるロック・シンガー、ウーバイが登場。熱いライブで観客を魅了した。

まずは、台湾エンターテイメント業界のイノベーターで、映画、テレビ、音楽と幅広い分野で活躍してきたニー・チェンホア氏をゲストに、台湾のグラミー賞ともいわれる「金曲奨」について、音楽評論家の関谷元子さんが司会でトークがスタート。1990年の第1回からその歴史を振り返り、1998年からのTVBSによるテレビ放送から曲の応募が急増し、ついに今年は1万5000曲をこえたこと、2003年には台湾語、客家語、原住民語の部門ができたこと、それぞれの言語の曲の特徴や傾向などを授賞式の映像などもはさんで解説。また、審査における公平さを保つための努力、商業主義ではなく文化的価値を評価し、世に知られていない名曲を広めるという金曲奨の存在意義などについても語った。

そして途中から、かつてニー氏のレコード会社に所属したウーバイもトークに参加し、自身の金曲奨受賞作「樹枝孤鳥 Lonely Tree, Lonely Bird」「雙面人 Two Face Man」「釘子花」のミュージックビデオや、受賞時の映像などを見ながら、楽しいトークを繰り広げた。

ウーバイが「かつて、僕とバンドのメンバーで5万台湾ドルを出して、自分たちで材木を買ってきて作ったスタジオがあったんです。そこでたくさんのアルバムを作ったんですが、火事になってしまった。その時、僕は消防署ではなくニーさんに電話したんです。『ニーさん、スタジオが燃えてる!』って。でもニーさんはこの調子で驚きもしない、大丈夫だよって(笑)。さっきから聞いてるこのトーン、眠くなりませんか?」と茶目っ気たっぷりに訴えると、ニー氏はそのおっとりした調子で「燃えたところは赤(紅)くなる、中国語では紅=有名になる、という意味なので、それで有名になるならいいよと。誰もケガしていなくて、しかも5万なら安いしね(笑)」と返し、観客を爆笑させた。

その後は、今年の金曲奨を受賞した台湾語アルバム「釘花子」についてウーバイが解説。「このアルバムは丁度オリンピックの時に作ったんですが、1日目の競技の放送が終わってからすぐ1曲目を書き始めて、2日目に2曲目、3日目に3曲目と1日に1曲ずつ書いて、レコーディングスタジオを10日間予約していたんですが、結局5日しか使わなかった(笑)。前の台湾語アルバムから12年たったにも関わらず、あっという間にできてしまいました。すべての曲が新鮮で刺激的です」と制作裏話を披露した。

そして、今ハマっているというアフロビートについて、「エチオピアの音楽を聴いてからアフロビートがすごく好きになったんですが、音階が日本やバリ島のものにすごく近いんです。アメージング! 世界はこんなに広いのに音楽はこんなに近い、それに驚きました。日本、台湾、バリ、そしてアフリカ、世界のビートを刻んでみて、こういうのが好きだなあと思いました」と熱く語り、笑顔を見せた。

この後、アコースティックギター1本でウーバイが台湾語の曲を3曲熱唱。1曲目の「放浪舞者」から、演奏を途中でとめ、「テンポが速くなっちゃうから手拍子しないで!」と声をかけつつ、ギター弾きつつのマイペースなステージ。2曲目の「我心内」も、ゆったりとしたテンポの温かい歌声に哀愁がにじみ、観客の心をつかむ。何よりその楽しそうな歌いっぷりがライブを盛り上げた。そして、「ファンのみなさんはいつも僕についてきてくれる。サイン会やコンサートでも、あっ!知った顔だ、って思うんです」と日本のファンに感謝の言葉をかけてから、3曲目の「世界第一等」を歌い、大きな拍手と歓声を浴びた。

その後、「アンコール!」に応えて、今度は中国語のバラード「被動」をドラマチックに聴かせ、イベントの最後にはファンからの質問にも応じた。「どうして日本で結婚式を挙げたんですか?」という質問には「……パスしてもいいかな?」と照れつつ、「日本のポップスや演歌などに影響を受けたりしていますか?」ときかれると、「音楽を作り出すにはまず自分自身を知ることが大事だと思います。そして自分自身を認める、そして受け入れる、そして好きになってみる。すごい、僕は演歌も歌えるぞ、なんでも歌えるぞって思う(笑)。それが僕です。それこそが台湾です」と答え、「映像や写真を撮ったりもされていますが、それらは音楽につながるんですか?」という質問に対しては「写真は写真、音楽は音楽です。しいて言えば、音楽というものは僕の中には存在しない。なぜなら僕自身が音楽ですから」との名言が飛び出した。

最後に観客からの写真撮影も快諾し、ステージで得意のポーズを決めたウーバイ。こうしてトークあり、ライブありの濃密な2時間半のイベントは終了し、興奮さめやらぬ観客たちに気さくに手をふって、ウーバイとニー氏は会場を後にした。